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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)306号 判決 1957年12月06日

控訴人(被告) 生野税務署長

被控訴人(原告) 市野兼三郎

主文

原判決を左の通り変更する。

控訴人が昭和二五年三月一五日付で被控訴人の昭和二四年度分所得税の総所得金額を六〇五、〇〇〇円と更正(のちに昭和二六年九月一三日付で総所得金額を三四二、七〇〇円と誤びゆう訂正)した処分のうち、金二六七、六〇〇円を超える部分はこれを取消す。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分しその一を被控訴人他を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴に関する部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を、又被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めると申立てた。

当事者双方の主張、提出援用の証拠、各相手方提出の書証に対する陳述は左記の外いずれも原判決事実摘示の通りなのでこれを引用する。

一、控訴人の主張

(一)  丹羽一夫の仕入額は金八〇、〇〇〇円である。従つて被控訴人の係争年度の仕入額は合計金七九〇、〇〇五円四〇銭を下らない。

(二)(イ)  控訴人が被控訴人のその名義で仕入れた仕入数量を具体的に主張立証すれば反証のない限り右仕入数量は全部被控訴人のものと推断せらるべきである。

(ロ)  市野和雄が被控訴人から独立して営業していたとしてもその期間は昭和二四年七月一七日から同年一二月中旬までであり従つて少くとも左記の仕入は被控訴人の仕入である。

商店名      仕入額        内訳

関西硝子(株)  四、一九四円  一、二九六円(五月分)二、八九八円(六月分)

三晃      一三、九三五円 一〇、八三五円(五月分)三、一〇〇円(六月分)

塩津       一、二九六円  一、二九六円(一二月一六日仕入分)

亀井       二、五〇〇円  二、五〇〇円(一二月一三日仕入分)

加藤      四八、六六六円 四八、六六六円(一月から六月まで)

合計七〇、五九一円

(三)  一般に税務当局に自己の所得を主張するに際し、特段の理由がない限り自己の営業に関する差益率(荒利益率)をその不利益に主張する筈がないので、本件においても被控訴人の差益率(荒利益率)は被控訴人の税務署に申出でたそれによるべきである。

(立証省略)

理由

本判決の理由は後段掲記の如く、被控訴人の昭和二十四年中の仕入額を原審認定の金五一五、六五四円四〇銭以外に金八〇、〇〇〇円を認めて合計金五九五、六五四円四〇銭と認定するのでこの点と右金額を前提とする判断の部分以外はいずれも原判決理由と同一なのでこれを引用する。

成立に争のない乙第三二号証の一二によると被控訴人は昭和二四年中に丹羽一夫から少くとも代金八〇、〇〇〇円相当の商品を仕入れた事実が認められるので前段判示の如く被控訴人の同年中の仕入額は合計金五九五、六五四円四〇銭となる。

控訴人は同人において被控訴人の名義で仕入れた仕入数量を具体的に主張立証すれば反証のない限り右数量は全部被控訴人のものと推断せらるべきであると主張するが、原判決理由摘示の如く控訴人が被控訴人名義の仕入額と主張するものの中金一五四、三五一円に対応する仕入先の帳簿等には単に「市野」または「市野商店」と記帳しているのみで右名義は被控訴人と市野和雄両名のために使用せられているので両者の区分が明瞭でない限りその額を以て被控訴人の仕入額とはなし得ない。

控訴人は市野和雄が被控訴人から独立して営業していた期間は昭和二四年七月一七日から同年一二月中旬迄であり、原審が被控訴人と市野和雄両名の仕入区分の分明でないとした仕入額中右期間外の分は被控訴人の仕入額であることが明かであると指摘するが、市野和雄の独立しての営業期間が被控訴人主張の如く昭和二四年四月から同年末までである事実は原審における被控訴人本人の供述によつて認めることが出来、その始期についての乙第二二号証の二の記載は右被控訴人本人の供述および原審証人宇野和雄の証言に対比し、真実とみとめがたく、ただ同年一二月半ば過ぎ頃には市野和雄が病気となり、被控訴人が同人のため整理に当つたことが、右被控訴人の供述によつて明らかであるのでその後は宇野和雄の新たな仕入はなかつたと認むべきであるが、控訴人の指摘する同年一二月一三日及び一六日の仕入はその日時からいつて直ちに宇野和雄の仕入でないと断言出来ないし、右営業の終期に関する原審証人宇野和雄の証言は上記被控訴人本人の供述と対比して措信出来ず、他に右と異る認定を導くに足る証拠なく、従つて控訴人の右の主張は失当である。

控訴人は、一般に税務当局に自己の所得を主張するに際し特段の事由のない限り、自己の営業に関する差益率をその不利益に主張する筈がないので、本件においても被控訴人の差益率は被控訴人の税務署に申出たそれによるべきであると主張するが、仮に控訴人主張の如く、一般に税務当局に自己の所得を主張するに際しては特段の事由のない限り自己の営業に関する差益率をその不利益に主張するものでないとするも、原判決理由説示の如く被控訴人が本件更正並びに誤びゆう訂正処分に対してなした各審査請求に差益率を四三%として収支を計上したのは被控訴人がことさらその主張の所得額を算出するため右差益率を主張したものと認められ、右は前掲特段の事由に該当するものと言うべく、控訴人の主張はその理由がない。

そこで被控訴人の昭和二四年中の総収入(売上)金額を調査するに、右は前記仕入額五九五、六五四円四〇銭差益率三八%を基礎として算定すべきであり、その額は九六〇、七三二円九〇銭となる。すると被控訴人の同年度の総所得金額は右総収入額から仕入金額五九五、六五四円四〇銭及び必要経費金九七、四三三円を控除した金二六七、六〇〇円(国庫出納金等端数計算法により一〇〇円未満を除棄して)となる。

そうすると、被控訴人の本訴請求は本件更正(のちに誤びゆう訂正)処分のうち、総所得金額二六七、六〇〇円を超える部分の取消を求める限度において正当であり、その他の部分は失当であるところ原判決は被控訴人の請求を認容した部分が多きに失するのでこれを変更すべきものとし民事訴訟法第三八六条、第九六条、第九二条本文を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 神戸敬太郎 金田宇佐夫 鈴木敏夫)

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